働く目的が幸せなら、適職の条件は決まる

幸せから逆算して自分に合う仕事を考えるイメージ

「自分に向いている仕事」から考えると、迷いやすい

就職活動や転職を考える時、多くの人が最初に考えるのは「自分には何の仕事が向いているのだろう」ということではないでしょうか。

営業が向いているのか。企画が向いているのか。大企業がよいのか。中小企業がよいのか。安定を取るのか、やりがいを取るのか。選択肢を並べるほど、かえって分からなくなります。

大学でキャリアデザインを教える時、私はその前に一つの問いを置きます。

「何のために仕事をするのか?」

私の答えはシンプルです。仕事そのものを人生の最終目的にするのではなく、「幸せな人生を送るため」に仕事をする。もちろん、何を幸せと感じるかは人によって違います。だからこそ、自分なりの幸せを考えることが、仕事選びの出発点になります。

目的が「幸せ」なら、仕事選びも逆算できる

私は授業で、「目的」と「目標」を分けて考えてもらいます。目的は最終的に実現したいこと。目標は、その目的に近づくための途中の到達点です。

例えば「有名企業に入る」「年収を上げる」「管理職になる」は、どれも目標にはなり得ます。しかし、それ自体が人生の最終目的とは限りません。

働く目的を「幸せな人生を送るため」と置くなら、次に考えるべきことは「自分は、どんな状態に幸せを感じるのか」です。ここが分かれば、適職探しも「職種当て」ではなく、「自分が幸せに働ける条件探し」に変わります。

お金は大切。でも、お金だけでは決まらない

仕事を選ぶうえで、給与はもちろん大切です。「お金は関係ない」と言うつもりはありません。実際、近年の研究でも、所得が増えるほど幸福度が高くなる傾向は確認されています。

一方で、「ある年収を超えると幸福度は完全に頭打ちになる」という単純な話でもありません。2010年のカーネマンとディートンの研究、2021年のキリングスワースの研究には違いがあり、2023年に両者が共同で再分析した結果、所得と幸福の関係は人によって異なり、もともと幸福度が低い層では一定水準を超えると伸びが鈍る一方、多くの人では高所得になっても幸福度との正の関係が続く、という整理になりました。

つまり、「お金は多い方がよい。しかし、お金だけでは幸せは決まらない」と考えるのが現実に近いと思います。仕事選びでも、給与だけを見て終わりにしないことが大切です。

トニー・シェイの「ハピネスのフレームワーク」

ここで、私の考え方の土台になった一つの枠組みがあります。オンライン靴店ザッポスの元CEO、トニー・シェイが2010年の著書『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』で紹介した「ハピネスのフレームワーク」です。

日本語版では、その一つとして「自分で自分をコントロールすること」「進歩を感じること」「つながり」「ビジョンと意味」という4つが紹介されています。

私はこれを、学生が仕事選びに使いやすいように少し言い換え、次の4つを「幸せを感じる4つの基本ニーズ」として授業で使っています。これは心理学上の正式な4分類ではなく、トニー・シェイの枠組みを参考に、私がキャリアデザイン用に解釈・再構成したものです。

幸せを感じる4つの基本ニーズを整理した図

1.自分で自分をコントロールしている

自分の仕事を、すべて誰かに決められている状態はしんどいものです。自分で考え、自分で選び、自分の判断で進められる範囲があることは、働く満足感に大きく関わります。

ただし、これは「好き勝手にできること」ではありません。新人がいきなり大きな裁量を与えられないのは当然です。大切なのは、自分の能力や責任に応じて、少しずつ任される範囲が広がっていくことです。適職探しでは、「この会社では、力をつければ任せてもらえるのか」という視点が重要になります。

2.進歩している

人は、昨日より少しできるようになった、知らなかったことが分かった、任される仕事が増えた、と感じる時に前向きになれます。

成長は、昇進や資格取得だけではありません。同じ仕事でも、工夫がうまくなった、人との接し方が変わった、判断が速くなったという進歩があります。仕事を通じて「自分が少しずつ前に進んでいる」と感じられるかどうかは、長く働くうえで大切な条件です。

3.他者とつながる

仕事は、一人だけでは完結しません。上司、同僚、顧客、取引先など、必ず誰かと関わります。だからこそ、「何をするか」と同じくらい「誰と働くか」は重要です。

私は学生や企業研修等で、メンターと呼べる人、少なくとも「この人のようになりたい」と思える人がいるかを見つけてほしいと話しています。そして、社内だけでなく社外にも相談できる人や刺激を受けられる人を持つ。人脈づくりは、単なる名刺集めではなく、自分の仕事人生を支えるつながりをつくることだと思います。

4.最終目的を言葉にする

4つ目は、「自分は何のために働くのか」を言葉にできることです。私はこれを「最終目的を言葉にする」と表現しています。

会社でいえば、経営理念にあたります。自分の人生観や仕事観と、会社が目指していることや事業の内容が大きくずれていないか。ここは、給与や仕事内容だけを見ていると見落としやすいところです。

例えば、社会の役に立つ仕事がしたいと強く思っている人が、自分では社会に良くないと感じる商品を売り続ける会社に入れば、仕事内容が得意でも苦しくなるでしょう。会社の理念と自分の価値観が完全に同じである必要はありません。しかし、少なくとも大きく反していないことは、長く納得して働くために重要だと思います。

面白いのは、4つのうち3つが心理学の理論と重なること

ここで少し「うんちく」です。私がトニー・シェイの考え方を仕事選びに置き換えて整理していたところ、そのうち3つが、心理学の「自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)」と非常に近いことが分かります。

自己決定理論は、エドワード・デシとリチャード・ライアンを中心に長年研究されてきた動機づけの理論です。この理論では、人が健全に成長し、意欲やウェルビーイングを保つための「基本的心理欲求」として、次の3つを重視します。

自律性(autonomy)=自分の意思で選び、行動している感覚

有能感(competence)=できることが増え、効果的に行動できている感覚

関係性(relatedness)=大切な他者とつながり、受け入れられている感覚

私の4つに重ねると、「自分で自分をコントロールしている」は自律性、「進歩している」は有能感、「他者とつながる」は関係性と、かなりきれいに対応します。

2023年にOxford University Pressから刊行された『The Oxford Handbook of Self-Determination Theory』でも、この3つが基本的心理欲求として整理されています。さらに2024年の大規模なメタ分析では、881の独立サンプル、計443,556人を統合し、自律性・有能感・関係性を支える周囲の働きかけが、それぞれの欲求充足や主観的ウェルビーイングと強く関連することが確認されています。

なお、「最終目的を言葉にする」は、自己決定理論の3つの基本的心理欲求に含まれるものではありません。ここは、トニー・シェイの「ビジョンと意味」を、私が適職探しに使えるように置き換えた部分です。理論そのものと私の解釈は、分けて考える必要があります。

日本の調査でも「自己決定」は幸福と強く関係していた

日本でも興味深い研究があります。西村和雄氏・八木匡氏が約2万人の日本人を対象に行った研究では、幸福感に影響する要因として健康や人間関係が大きく、さらに所得や学歴と比べても「自己決定」が強い影響を持つことが示されました。

もちろん、これは「自分で決めさえすれば必ず幸せになる」という意味ではありません。しかし、自分の人生や仕事を自分で選んでいる感覚が、幸福感と深く関係していることは、仕事選びを考えるうえでかなり示唆的です。

適職は「職種名」ではなく「4つを満たせる仕事」

こう考えると、適職は「営業」「企画」「事務」「エンジニア」といった職種名だけでは決まりません。

同じ営業職でも、細かく管理されて自分で考える余地がない会社と、力に応じて任せてもらえる会社では、自律性はまったく違います。同じ企画職でも、学べる上司がいる会社と、相談できる人が誰もいない会社では、成長やつながりの感じ方が違います。

つまり、「何の仕事をするか」と同じくらい、「どのような環境で働くか」が重要です。

適職探しで確認したいのは、次の4点です。

自分の力に合った裁量を持てるか。

仕事を通じて進歩・成長を感じられるか。

尊敬できる人、相談できる人とつながれるか。

会社の理念や仕事の意味が、自分の人生観・仕事観と大きくずれていないか。

この4つで会社や仕事を見ると、求人票の給与や職種名だけでは分からなかった「自分に合うかどうか」が、かなり具体的に見えてきます。

私は「家族のささやかな幸せ」を仕事の目的にした

私自身も、仕事について悩んだ時期を経て、「何のために仕事をするのか」を考え直しました。そして、仕事の目的を「家族のささやかな幸せ」と決めました。

これは、すべての人に当てはまる答えではありません。仕事で大きな成果を残すことが幸せな人もいれば、自由な時間を持つこと、人の役に立つこと、好きなことを続けることが幸せな人もいます。

大切なのは、自分なりの最終目的を一度言葉にしてみることです。目的が分かれば、「この会社は有名だから」「給料が高いから」だけではなく、「この仕事は自分の幸せにつながるのか」という基準で選べるようになります。

適職探しは、「幸せ」から逆算すると分かりやすい

自分にぴったりの職業を一発で当てる方法はありません。人も会社も変わりますし、若い頃と年齢を重ねた後では、仕事に求めるものも変わります。

それでも、「何のために働くのか」という目的を先に置けば、仕事選びの判断軸はつくれます。

自分で選んでいる。少しずつ進歩している。人とつながっている。そして、自分の仕事が自分の最終目的と大きくずれていない。

働く目的が幸せな人生を送るためなら、この4つは「自分に合う仕事」を考えるかなり実用的な物差しになると、私は考えています。

参考資料

  • トニー・シェイ『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』本荘修二監訳、豊田早苗・本荘修二訳、ダイヤモンド社、2010年。
  • ダイヤモンド社 書籍公式ページ:https://www.diamond.co.jp/book/9784478013731.html
  • Richard M. Ryan (ed.), The Oxford Handbook of Self-Determination Theory, Oxford University Press, 2023.
  • Oxford Academic:https://academic.oup.com/edited-volume/45638
  • Slemp, G. R., Field, J. G., Ryan, R. M., Forner, V. W., Van den Broeck, A., & Lewis, K. J. (2024). Interpersonal Supports for Basic Psychological Needs and Their Relations With Motivation, Well-Being, and Performance: A Meta-Analysis. Journal of Personality and Social Psychology. https://doi.org/10.1037/pspi0000459
  • 西村和雄・八木匡「幸福感と自己決定―日本における実証研究」RIETI Discussion Paper 18-J-026、2018年。https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/18090006.html
  • Killingsworth, M. A., Kahneman, D., & Mellers, B. (2023). Income and emotional well-being: A conflict resolved. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120. https://doi.org/10.1073/pnas.2208661120

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