ワークライフバランスって仕事とプライベートだけ?

ワークライフバランスを健康・仕事・遊び・愛の4分野で考えるイメージ

「健康」「仕事」「遊び」「愛」の4つの分野で捉える

以前のコラムで、私は「ワークライフバランス」という言葉が嫌いだと書きました。理由の一つは、「仕事」と「生活」を別々のものとして分け、どちらかを増やせばどちらかが減るように聞こえるからです。

仕事も人生の一部です。仕事が楽しく、誰かの役に立ち、自分自身も納得して働けているなら、仕事の時間を単純に「減らすべきもの」と考える必要はありません。

そんなことを考えていた時、『スタンフォード式 人生デザイン講座』で、ワークライフバランスを「健康」「仕事」「遊び」「愛」の4つの分野で捉える考え方に出会いました。私は、この4つに分ける考え方の方が、人生の実感に近いと思います。

まず、自分の「現在地」を知る

この本は、スタンフォード大学で生まれた「Designing Your Life(人生をデザインする)」という考え方をもとにしています。デザインというと、何か格好のよい完成形を最初に決めるように思うかもしれません。しかし本書が重視するのは、理想を考える前に、いま自分がどこにいるのかを知ることです。

「だからこそ、あなたは『現在地』からスタートしなければならない」

― ビル・バーネット、デイヴ・エヴァンス『スタンフォード式 人生デザイン講座』第1章「現在地を知る」より

その現在地を確認するために使われるのが、「健康/仕事/遊び/愛のダッシュボード」です。4つの分野について、自分がいまどのくらい満たされているかをゲージのように見ていきます。

4つの分野は、何を意味するのか

健康

ここでいう健康は、病気がないという意味だけではありません。本書では、身体だけでなく、心や精神の状態も含めて健康を捉えます。よく眠れているか。体調はどうか。気持ちは安定しているか。無理を重ねていないか。そうした状態を含めて、自分の健康のゲージを見ます。

仕事

仕事も、会社から給料をもらう仕事だけを指しません。本書では、有償・無償を問わず、自分が責任を持って行っている活動を広く「仕事」と捉えます。会社の仕事、家事、子育て、家族の介護、地域活動、ボランティアなども、その人にとっての仕事ととらえます。

遊び

遊びは、「役に立つから」「評価されるから」ではなく、それ自体が楽しいからすることです。趣味、音楽、スポーツ、旅行、読書、仲間との時間。内容は何でも構いません。大切なのは、成果を求めず、純粋に楽しむ時間があるかどうかです。

愛は、恋愛だけの話ではありません。家族、パートナー、子ども、友人、仲間、地域など、自分にとって大切な人とのつながりです。誰かを大切にすることだけでなく、自分も誰かから大切にされ、つながっていると感じられることが含まれます。

4つの中で、健康が土台になる

この4つは横一列に並ぶものではありません。本書では、健康を他の分野の土台として捉えています。健康が崩れると、仕事に集中しにくくなり、遊びを楽しむ余裕もなくなり、大切な人との関係にも影響が出やすくなるからです。

これは経営にも似ています。売上、利益、人材、設備、営業など、会社にはいろいろな課題があります。しかし、経営者自身が心身ともに疲れ切って判断できない状態になれば、どの課題にも十分に対応できません。忙しい人ほど、健康を「仕事が終わってから考えるもの」にしないことが大切だと思います。

4つを25%ずつにする必要はない

ここで誤解してはいけないのは、4つを均等に25%ずつにすることが理想ではない、という点です。本書のダッシュボードは、「正しい配分」を教えるためのものではありません。いまの自分がどの状態にあり、どこが満たされ、どこが不足しているのかに気づくためのものです。

仕事がとても充実していて、しばらく仕事に多くの時間を使いたい時期もあるでしょう。家族との時間を最優先にしたい時期もあります。遊びに夢中になれる時期もあれば、健康の回復を最優先にしなければならない時もあります。

大切なのは、「世間で理想とされるバランス」に自分を合わせることではなく、自分が今の状態に納得しているかを確かめることです。

年齢やライフステージで、バランスは変わる

ここからは、本書の4分野という枠組みを踏まえた私の解釈です。

20代なら、仕事を覚えることや新しい経験に多くの時間を使う時期があるかもしれません。子育てや介護の時期には、「愛」や無償の「仕事」に使う時間が大きくなります。年齢を重ねれば、若い頃には当たり前だった「健康」の重みが増していくこともあります。

つまり、人生全体を通して一つのバランスを守り続けるのではなく、その時々の状況に合わせて4つのゲージを見直していく。私は、その方が現実的なワークライフバランスの考え方だと思います。

経営者ほど、4つを分けて考えてみる

中小企業の経営者は、仕事と生活の境目が曖昧になりやすいものです。会社のことを考えていない時間の方が少ない、という方も珍しくありません。

だから「仕事を減らして私生活を増やしましょう」と言われても、現実にはしっくりこないことがあります。しかし、健康・仕事・遊び・愛の4つに分けると、もう少し具体的に考えられます。

仕事は充実しているが、遊びがほとんどない。家族との関係はよいが、健康が気になる。仕事も健康も問題ないが、仕事以外の人とのつながりが減っている。こうして分けてみると、「仕事を減らすか増やすか」だけでは見えなかったことが見えてきます。

一度、4つのゲージを書いてみる

難しく考える必要はありません。紙に「健康」「仕事」「遊び」「愛」と書き、それぞれが今どのくらい満たされているかを、0から満タンまでの感覚で塗ってみます。

そして、低いものがあれば、すぐに満タンにしようとするのではなく、「なぜ低いのか」「本当に変えたいのか」「何を少し変えればよいのか」を考えます。

この作業のよいところは、人生全体を大げさに作り直さなくてもよいことです。まず現在地を知り、気になるところを少し変えてみる。うまくいかなければ、また考え直す。デザインという言葉は、そうした試行錯誤に向いています。

健康・仕事・遊び・愛の4つの現在地を考えるワークシート

ワークライフバランスは、時間配分だけの話ではない

ワークライフバランスという言葉から、残業時間、休日数、仕事と家庭の時間配分を思い浮かべる人は多いと思います。もちろん、それらも大切です。

ただ、人生を「仕事」と「それ以外」に二分するだけでは、自分が本当に不足しているものが見えないことがあります。健康、仕事、遊び、愛。4つに分けてみると、仕事が忙しいこと自体が問題なのではなく、健康が損なわれているのか、遊びがないのか、大切な人とのつながりが減っているのかが見えてきます。

そして、そのバランスは人によって違い、同じ人でも年齢や状況によって変わります。大切なのは、誰かが決めた理想のバランスではなく、自分の現在地を自分で確認し、必要なら少しずつデザインし直すことです。

出典・書籍紹介

  • ビル・バーネット、デイヴ・エヴァンス 著/千葉敏生 訳
  • 『スタンフォード式 人生デザイン講座』ハヤカワ文庫NF、早川書房、2019年
  • 原著:Designing Your Life: How to Build a Well-Lived, Joyful Life
  • 早川書房公式ページ:https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000090546/
  • Designing Your Life公式サイト:https://designingyour.life/

本書は、スタンフォード大学の人気講座をもとに、製品やサービスを生み出す「デザイン思考」を人生設計に応用した一冊です。就職・転職だけでなく、人生の転機や退職後までを含め、「正解を探す」のではなく、自分の現在地を知り、小さく試しながら人生をつくっていく方法が紹介されています。

今回紹介した「健康/仕事/遊び/愛のダッシュボード」は、第1章「現在地を知る」で扱われる考え方です。本文では、書籍の内容を必要な範囲で要約し、直接引用は短い一節に限定しました。

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