「できない」は、やる気がないとは限らない
事業やプロジェクトを進めていると、「できません」「時間がありません」「人手が足りません」「予算がありません」という言葉が出てくることがあります。
経営者から見ると、つい「やる気がないのではないか」「最初から無理だと決めつけているのではないか」と感じてしまうかもしれません。もちろん、単なる言い訳になっている場合もあります。しかし、すべてをやる気の問題として片づけてしまうと、本当に必要な対話ができなくなります。
「できない」という言葉の裏には、いくつかの状態があります。
何のためにやるのかが見えていない。
何から始めればよいのかが分からない。
失敗した時の不安がある。
求められている水準が分からない。
一人で抱え込みすぎている。
この状態のまま、「なぜできないのか」と問い詰めても、相手はさらに防御的になります。必要なのは、相手を責めることではなく、「できない」の中身を一緒に見えるようにすることです。
まず「何のためにやるのか」をそろえる
人は、目的が分からないことには動きにくいものです。
やることだけを指示されても、「なぜそれをするのか」「どこにつながるのか」が見えていなければ、仕事は作業になります。作業として受け止めている限り、少し難しいことが出てきた時に、「できない」という反応になりやすくなります。
たとえば、販促チラシを作るという仕事があったとします。
単に「チラシを作って」と言われるのと、「新規のお客様に来店のきっかけを作るために、まずはこの商品を知ってもらうチラシを作る」と言われるのでは、受け止め方が変わります。
目的が見えれば、考える方向が定まります。
目的が見えれば、工夫の余地も見えてきます。
目的が見えれば、「できない」ではなく「どうすれば近づけるか」を考えやすくなります。
上司やリーダーが最初に確認すべきことは、「できるか、できないか」ではありません。
まず確認すべきなのは、次の問いです。
• これは何のためにやるのか
• 終わった時に、どのような状態になっていればよいのか
• 今回、最も大事にしたいことは何か
目的をそろえずに方法だけを求めると、話は噛み合いません。まずは目的を共有することが、「できない」を変える出発点になります。
「できない」の中身を分解する
「できない」と一言で言っても、実際にはいくつかの段階があります。
一つ目は、何をすればよいのか分からない状態です。
目的も手順も見えていないため、本人も動きようがありません。この段階の人に細かい技術を教えても、なかなか身につきません。まず必要なのは、全体像を見せることです。
二つ目は、やるべきことは分かっているが、やり方が分からない状態です。
この段階では、具体的な手順や見本が必要です。「考えておいて」ではなく、「まずここまでやってみよう」と小さく分けることで動きやすくなります。
三つ目は、やればできるが、不安がある状態です。
過去に失敗した経験がある、責任を負うことに不安がある、周囲からの評価が気になる。こうした場合は、本人の能力だけでなく、安心して試せる環境も必要です。
四つ目は、すでにできるが、まだ習慣になっていない状態です。
この段階では、確認の機会や振り返りが効果的です。一度できたから終わりではなく、繰り返すことで自然にできるようになります。
このように分解していくと、「できない」は一つの大きな壁ではなくなります。どこで止まっているのかが見えれば、次に必要な関わり方も見えてきます。

上司が変えるべきは、指示より問い
「できない」と言う相手に対して、すぐに正解を示したくなることがあります。
「こうすればいい」
「前にも言ったはず」
「まずやってみればいい」
もちろん、指示が必要な場面もあります。しかし、いつも答えを渡してしまうと、相手は自分で考える機会を失います。反対に、問いがうまく使えると、相手は自分の頭で状況を整理し、次の行動を考え始めます。
たとえば、次のような問いです。
• 何が一番引っかかっていますか
• どこまでなら、今の状態でも進められそうですか
• 何がそろえば動けそうですか
• 最初の一歩にするとしたら、何から始めますか
• 一人で難しいなら、誰の力を借りると進みそうですか
• 期限までに全部は難しいとして、まずどこまでならできますか
大切なのは、相手を追い込む問いにしないことです。
「なぜできないのか」と聞くと、相手はできない理由を探します。
「どうすれば少し進められるか」と聞くと、相手は進める条件を探します。
問いの立て方が変わるだけで、会話の向きが変わります。会話の向きが変われば、相手の考え方や行動も少しずつ変わっていきます。
経験の差は、答えを押しつけるためではない
仕事の経験が浅い人は、自分の知っている範囲の中で考えます。それは自然なことです。まだ見たことがない方法、経験したことがない判断基準、失敗した時の対応方法は、自分だけでは思いつきにくいからです。
ここで、上司や先輩の経験が役に立ちます。
ただし、それは「上司の言うことを聞きなさい」という意味ではありません。経験のある人の役割は、相手の視野の外にある選択肢を見せることです。
本人が小さな円の中で考えているとすれば、上司や先輩は、もう少し大きな円から見える景色を伝えることができます。
「こういう考え方もある」
「この順番で進めるとやりやすい」
「過去には、こういう失敗があった」
「今回は、ここを優先した方がよい」
こうした情報は、本人の視野を広げます。視野が広がれば、「できない」と思っていたことにも、別の進め方が見えてきます。
一方で、上司側にも注意が必要です。経験があるからといって、すべてを正解として押しつけてしまうと、相手は考えることをやめてしまいます。経験は、相手を従わせるためではなく、相手が自分で考える範囲を広げるために使うものです。
「できない」で止めず、「どうすればできるか」に変える
組織やプロジェクトでは、思い通りに進まないことが必ずあります。時間が足りない。人手が足りない。予算が限られている。経験が足りない。こうした制約がない仕事の方が少ないかもしれません。
だからこそ、「できない」という言葉が出た時に、そこで話を止めないことが大切です。
できない理由を責めるのではなく、目的を確認する。
大きな問題として抱え込むのではなく、詰まっている点を分解する。
正解を押しつけるのではなく、次に進むための問いを投げかける。
そして、最初の一歩を一緒に決める。
「できない」を「どうすればできるか」に変えるには、特別な言葉が必要なわけではありません。必要なのは、相手が前に進める問いを持つことです。
問いが変われば、会話が変わります。
会話が変われば、行動が変わります。
小さな行動が変われば、プロジェクトの進み方も少しずつ変わっていきます。
社員を無理に変えようとするのではなく、社員が動き出せる問いを持つこと。そこから、組織の前進は始まります。
事業の課題を整理し、次に何をすべきかを一緒に考えたい方は、お気軽にご相談ください。
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