過小評価か過大評価か

自分の価値を小さく見せすぎず前に進むイメージ

謙遜は美徳だが、仕事では伝わらないことがある

日本では、謙遜することがよいことだと考えられる場面が多くあります。「まだまだです」「大したことはありません」「うちはそんな立派な会社ではありません」。こうした言い方は、人間関係をなめらかにするうえでは大切な振る舞いです。

しかし、仕事や経営の場面では、謙遜がそのまま相手に伝わるとは限りません。よく知っている相手なら、「そう言っているけれど、本当は力がある」と分かってくれるかもしれません。ところが、初めて会う相手や、まだ自社のことをよく知らない相手に対しては、謙遜はそのまま「小さな評価」として受け取られます。

つまり、過小評価して伝えるということは、自分や自社のサイズを小さくプレゼンしていることになります。これは人柄の問題ではなく、情報の伝わり方の問題です。相手は、こちらの本当の能力を知りません。だから、こちらが小さく伝えれば、小さく理解されます。

過小評価は、選ばれる機会を減らす

ビジネスでは、相手に選ばれる前に、まず「期待される」必要があります。商品やサービスを提案する時、仕事を任せてもらう時、協力先を探す時、採用や営業の場面でも同じです。相手は限られた情報の中で、「この人に任せてよいか」「この会社に相談してよいか」を判断します。

その時に、自分の価値を必要以上に小さく伝えてしまうと、相手の期待値も小さくなります。本当はできることがあるのに、相手には見えません。本当は支援できる領域があるのに、相談候補から外れてしまうかもしれません。

これは、単に自己PRが苦手という話ではありません。価格設定や提案内容にもつながります。自社の価値を低く見積もりすぎると、価格も安くしすぎます。安くしすぎると、十分な時間や人をかけられなくなります。その結果、提供価値も下がり、さらに自信を失うという悪循環になりかねません。

過小評価によって相手に伝わる価値が小さくなる図

過大評価は悪いことなのか

一方で、過大評価という言葉には、少し危うい印象があります。できないことをできると言う。実力以上に見せる。無責任に大きく見せる。こうした意味での過大評価は、もちろんよいことではありません。

ただし、すべての過大評価が悪いわけではないと思います。特に、自分が本当にやりたい方向に対して、今の能力より少し先の自分を想定することは、成長のエンジンになります。

たとえば、まだ十分な経験はないけれど、この分野を伸ばしたい。今は完璧ではないけれど、この仕事を受けることで力をつけたい。今の会社の規模では小さいかもしれないが、将来この領域で選ばれる存在になりたい。こうした「少し先の自己評価」は、単なる見栄ではありません。行動を引き出すための仮説です。

やりたい方向への背伸びは、成長のエンジンになる

人は、今できることだけをしていても大きくは伸びません。少し背伸びをして、やってみる。足りない部分を学ぶ。経験を積む。次にもう少し大きな仕事に挑む。その繰り返しで、本当の能力が後から追いついてきます。

この意味で、やりたい方向への過大評価は、成長のエンジンになります。大切なのは、無責任に大きく見せることではなく、「この方向へ進みたい」と決め、その方向へ自分を少し引き上げることです。

逆に、やりたくない方向への過大評価は不要です。興味もなく、力を入れたいわけでもない領域で、自分を大きく見せる必要はありません。むしろ、そこは無理に引き受けず、できることとできないことを分けた方がよいと思います。

やりたい方向への背伸びが成長のエンジンになることを示す図

会社も、自社の価値を小さく見せすぎない方がよい

この話は、個人だけでなく会社にも当てはまります。中小企業ほど、自社の強みを当たり前のことだと思いがちです。「昔からやっているだけです」「特別なことはしていません」「大手と比べたらまだまだです」。そう言いたくなる気持ちは分かります。

しかし、顧客から見れば、その当たり前が価値になることがあります。小回りが利くこと、長年の経験があること、現場を知っていること、顧客の事情に合わせられること、意思決定が早いこと。これらは、外から見れば十分な強みです。

マーケティングで大切なのは、自慢することではありません。相手にとって価値のあることを、相手に分かる言葉で伝えることです。過小評価して黙っているのではなく、価値を正しく言語化することが必要です。

等身大と、少し先の自分を使い分ける

では、過小評価と過大評価のどちらがよいのか。結論を言えば、仕事では「等身大」と「少し先の自分」を使い分けることが大切だと思います。

実績や能力については、嘘をつかず、できることを正しく伝える。まだできないことは、できないと言う。ただし、やりたい方向については、今の自分だけで判断しない。少し背伸びをして、そこに向かって行動する。

過小評価しすぎると、選ばれる機会を失います。無責任な過大評価は、信頼を失います。その間にあるのが、「根拠ある背伸び」です。自分や自社の価値を小さく見せすぎず、しかし大きく見せすぎるのでもなく、これから伸ばしたい方向を明確にして伝える。

仕事や経営では、この姿勢がとても重要です。自分をどう見せるかは、単なる印象づくりではありません。どの仕事を選び、どの顧客に選ばれ、どの方向に成長していくかを決める意思決定でもあります。

謙遜は大切です。ただし、自分や自社を必要以上に小さく見せる必要はありません。やりたい方向があるなら、その方向に向かって少し大きく構える。その少しの背伸びが、次の成長を生むのだと思います。

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