PDCAは大切だが、万能ではない
仕事を改善する時に、PDCAという言葉はよく使われます。計画を立て、実行し、結果を確認し、次の改善につなげる。業務改善やプロジェクト管理では、とても大切な考え方です。
ただし、現場ではPDCAだけではうまく回らないことがあります。計画を立てようとしても、そもそも何が問題なのかが見えていない。実行した後に振り返っても、数字には出ない気づきが共有されない。担当者の経験や感覚が、その人の中だけに残ってしまう。こうした状態では、PDCAを回しているつもりでも、組織の知識はなかなか増えていきません。
PDCAは、すでにある程度やることが見えている時には有効です。一方で、まだ答えが見えていないテーマや、現場の経験を組織全体で生かしたい場面では、別の視点も必要になります。
そこで役立つのが、SECIモデルという考え方です。
現場の知恵は、最初から言葉になっていない
仕事の中には、マニュアルや数値だけでは表しにくい知識があります。
たとえば、接客の中で感じるお客様の反応。ベテラン社員が自然に行っている声かけ。商談の空気を読んで、話す順番を変える判断。トラブルになりそうな時に、早めに気づく感覚。こうしたものは、本人にとっては当たり前でも、他の人には見えにくい知識です。
このような経験や感覚は、暗黙知と呼ばれます。反対に、言葉や図、手順、資料として共有できる知識は、形式知と呼ばれます。
組織にとって大切なのは、暗黙知をそのまま個人の中に閉じ込めないことです。現場で得た気づきを言葉にし、他の人と共有し、実践できる形に整える。そこまでできて初めて、経験は組織の知識になります。
SECIモデルは、知識が生まれる流れを示す
SECIモデルは、暗黙知と形式知を行き来しながら、組織の知識を育てていく考え方です。大きく分けると、次の4つの流れで整理できます。
• 共同化(Socialization):経験や場を共有する
• 表出化(Externalization):気づきや感覚を言葉にする
• 連結化(Combination):言葉になった知識を、資料や仕組みとして整理する
• 内面化(Internalization):整理された知識を実践し、自分のものにする
たとえば、ある社員がうまくいった商談を見学する。そこで感じたことを話し合い、なぜうまくいったのかを言葉にする。その内容を営業資料やチェックリストに整理する。別の社員が実際に使い、自分の経験として身につける。
このように、経験が共有され、言葉になり、整理され、実践に戻っていくことで、知識は組織の中で循環していきます。

会議やプロジェクトでSECIを使う
SECIは、難しい理論として扱う必要はありません。会議やプロジェクトの進め方に置き換えると、かなり実務的に使えます。
まず、現場で起きていることを共有します。数字や結果だけでなく、「なぜそう感じたのか」「どの場面で引っかかったのか」「お客様はどのような反応をしたのか」といった経験も出してもらいます。
次に、その経験を言葉にします。単なる感想で終わらせず、「成功した理由は何か」「失敗の原因はどこか」「他の場面でも使える考え方はあるか」を整理します。
さらに、言葉になった内容を資料や手順に落とし込みます。議事録、チェックリスト、提案書の型、研修資料、業務フローなど、他の人が使える形に変えることが大切です。
最後に、それを実際の仕事で試します。試して終わりではなく、また現場で得た気づきを持ち寄り、次の改善につなげます。この流れを回すことで、個人の経験が組織の力に変わっていきます。
PDCAとSECIは対立しない
「PDCAよりSECI」と言うと、PDCAをやめてSECIに置き換えるように聞こえるかもしれません。しかし、実務では二つを対立させる必要はありません。
PDCAは、決めたことを実行し、改善していくための考え方です。一方、SECIは、経験や気づきを組織の知識に変えていくための考え方です。役割が少し違います。
たとえば、新しい商品企画や販促施策、事業計画づくりの初期段階では、まだ正解が見えていません。この段階では、現場の声や顧客の反応、担当者の違和感を集め、言葉にして整理するSECIの視点が役立ちます。
一方で、方向性が決まり、実行する施策が見えてきたら、PDCAで進捗を確認し、改善を重ねていくことが有効です。

大切なのは、何でもPDCAで管理しようとしないことです。まだ知識が十分に育っていない段階では、まず経験を共有し、言葉にし、組織で使える知識に変えていく必要があります。
小さな会社ほど、知識を人に閉じ込めない
中小企業では、一人の社員が多くの役割を担っています。だからこそ、特定の人の経験や勘に頼って仕事が回っていることも少なくありません。
それ自体が悪いわけではありません。むしろ、小さな会社では、経験豊富な人の判断が大きな力になります。しかし、その知識が本人の中だけにあると、他の人が育ちにくくなります。担当者が不在になると仕事が止まる。引き継ぎがうまくいかない。新しい人が同じ失敗を繰り返す。こうした問題につながることもあります。
知識を共有するというと、すぐにマニュアル化を考えがちです。しかし、最初から立派なマニュアルを作る必要はありません。まずは、うまくいったこと、困ったこと、判断に迷ったことを話す場をつくる。そこで出た気づきを言葉にして残す。小さなところから始めれば十分です。
会議や打ち合わせも、単に報告する場ではなく、知識を生み出す場にできます。経験を共有し、言葉にし、整理し、次の行動につなげる。こうした積み重ねが、組織の学習になります。
まずは、経験を言葉にするところから
PDCAは、仕事を改善するうえで大切な考え方です。ただ、PDCAを回す前に、現場の経験や気づきが言葉になっていなければ、改善の材料が不足します。
SECIの視点を持つと、会議やプロジェクトの見え方が少し変わります。結果だけでなく、そこに至るまでの経験を見る。感覚や違和感を言葉にする。個人の工夫を、他の人も使える形にする。そして、実践を通じてまた知識を深める。
こうした流れができると、組織の中に知識が残りやすくなります。担当者だけが知っている状態から、チームで使える知識へ変わっていきます。
まずは、日々の会議や振り返りの中で、「何が起きたか」だけでなく、「そこから何を学べるか」を言葉にしてみることです。小さな気づきを共有するところから、組織の知識づくりは始まります。
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